老姉妹の思い出旅行 足立美術館 (nya.405)

足立美術館

一つ宿題が出来たかな、と思う足立美術館でした。 (2017年12月8日)

私の母親の世代は、今では想像がつかないくらい「家父長制」の中で生きてきました。

そのような中で「女」として生まれて生きることは、父親や夫や息子の気性によって、天と地ほどの開きのある「運不運」に左右されることを意味します。

現代においてもなお、そのような要素は大いに残っていますし、そのことに不公平を感じることも多々ありますが、一世代前の「女」が田舎の不文律に縛られることの重さは、大袈裟に言うなら、イスラム教の戒律に縛られた女性の立場に近いのではないかと思います。

私のような世代では、家父長的な発言を聞けば「寝言は寝て言え」的に瞬殺できてしまうことも(笑)、母親世代にとっては「従うしかないもの」として受け止めます。

足立美術館

我が家の場合、祖父が93才で他界するまで、母が忘年会や旅行に参加して家を空けることは「嫁としての職務放棄」と、一旦裁定がくだれば覆すことのできない不文律として強制力を持ち続けたのはそのためです。

祖父が他界したのは、かれこれ10年前、2007年のことであり、その時母は66才でした。

父が母に、農村に生きる「世間体」として旅行を認めたのは、農村の婦人会主催のバス旅行と、婦人会で行くお遍路ツアーだけでしたので、母は「パスポート」と無縁の66年間を生きてきました。

幸いなことに、母に適用された不文律も世代の異なる私という「娘」にまでは及ばなかったため、私自身は能天気にアチコチで「飲んだくれ」自由を満喫してきました。(笑)

足立美術館

そのような事情で私は、祖父の他界後、母を年に一度はせっせと「旅行」に連れ出しました。

しかし私自身、ハードな仕事に追われる日々でしたので、年に数日、母と旅行するのが精一杯、「親孝行の真似事」をして自己満足を得ていたのです。

そのようにして10年が過ぎ、ここ数年は、旅行の度に母の歩く速度が遅くなっていることの意味を噛みしめていました。

足立美術館

そんな母が今年になって、テレビで足立美術館がとり上げられるのを見る度に「行って見たいわぁ」とつぶやきます。

足立美術館は、交通機関の発達した場所にあるわけではないので、車で行くことになるなぁ・・・と、腰が引けつつ「つぶやき」を聞き流していたのですが、我が家から足立美術館まで、頑張れば「なんとかなる」距離でもあります。

「どうするかなぁ・・・」と数ヶ月、宙ぶらりんにしていました。

・・・と、ある時ふと「名案」が浮かび、「よし、足立美術館へ行くぞ!!」と心が定まりました。

足立美術館

その「名案」とは、母の姉、叔母が一緒に来るなら足立美術館へ行こう、というものです。

母には5才年上、82才の姉がおり、車で20分ほど離れた場所に住んでいます。

しょっちゅう電話で話したり、家を訪ねたりする仲のいい姉妹です。

叔母は裕福な家に嫁ぎ、伴侶が病没して以降は、方々のリッチな海外旅行へ出掛けて楽しそうにしていましたが、80才になる頃から、遠出が面倒になったと言い、海外旅行も国内旅行もしなくなっていました。

私と母がする旅行は、お互いの体力温存のため極力歩かないものなので、一緒に行かないかと何度か誘ってみましたが、「電車の乗り換えも面倒」と言って、断られていました。

足立美術館

叔母は、兄と私が幼い頃、毎年のように叔母の家に一週間ほど預けられた時、嫌な顔せず可愛がってくれましたし、小学5年生の私が、初めて一人で電車に乗って行った先も叔母の家でした。

くも膜下出血で倒れた兄が九死に一生を得て左半身不随の身体になり、それでも病前に趣味だったダイビングにどうしても行きたいというので、私が付き添って兄の車椅子を押してプーケットに行って帰った時、所用で迎えに来れなくなった母の代わりに関空まで迎えに来てくれたのも叔母でした。

そんな「大恩」のある叔母ですので、一度一緒に旅行に行って美味しいものを食べてもらい、「大恩」のほんの一部でも恩返ししたいと思っていたのです。

足立美術館

我が家から足立美術館へ車で行くなら、叔母の家の玄関でピックアップするので「ほとんど」歩く場所はありません。

調べると、足立美術館の歩いて「1分」のところに、良さげな温泉旅館もあるではありませんか。

私は母に「今度こそ」叔母を説得するように指示し、叔母も「それなら」と承諾してくれたので、『善は急げ』と早速旅館を押さえました。

「今は8月だけど、11月は紅葉の季節で旅行のハイシーズンだから、もう旅館の予約をしたからね」と言った数日後、私は右足首腓骨骨折、全治8週間の身体となったのでした。(爆笑)

足立美術館

そんなこんなで、私の右足首も無事復活し(笑)、先日、足立美術館へ行ってきました。

なんとまぁ、叔母と母の「初めて」の姉妹旅行でした。

彼女たちの青春は戦後すぐの動乱期であり、その後は結婚、子育て、介護と、おのおのの生活に追われ、気が付けばお互いが後期高齢者、なかなか重い腰が上がらず現在に至っていたのです。

互いの旅行の話を聞き合ってはいるものの、姉妹は「一緒に旅行する」という発想を持たず過ごしてきました。

足立美術館

「間に合った(嘆息)」と、二人の後ろを歩きながら何度も思いました。

一つは、狙い定めた紅葉の時期を逸することなく、ゴージャスな紅葉を愉しむことができたことです。

最近の11月は暖かいことが多く、11月の中旬でも紅葉が始まったばかり、本格的な紅葉は12月ということが多く、それを見越して11月末に旅行の計画をたてました。

ところが今年の11月は殊の外冷え込み、テレビで聞く「紅葉情報」もさくさく「見ごろ」を迎えていくので、内心焦っていたのです。

老姉妹が80年近く生きて実現した旅行ですから、出来るなら「目にするもの全てが美しい」というものであって欲しいと願っていました。

足立美術館

蓋を開けてみると、「晩秋」に滑り込みセーフでした。

行き帰りを山間の高速道路を通りましたが、全山落葉直前の色に染め上げられ、それはそれは美しいものでしたし、目的地の足立美術館に展示されている横山大観の日本画も素晴らしく、また海外の旅行サイトで10年以上ナンバーワンにランクされる足立美術館のお庭にも、もみじの紅葉が十分に残っていて、美しさを更にグレードアップしていました。

さぎの湯荘

 

もう一つ「間に合った」のは、もちろん、老姉妹が楽しめるタイミングで旅行が実現できたことです。

私が乳がんという病を得なければ、今もまだ仕事中心の生活を送り、自分中心の考えしか持ち合わせなかったことでしょう。

今回の旅行のようなアイディアが思い浮かぶとしても、私自身の「定年後」だろうと思います。

現在の私は50才、十年後では「老姉妹の旅行」が実現することはなかったのです。

【乳癌ステージ4】という状況に置かれたことで、私はそれまでの生き方に決別することができました。

【乳癌ステージ4】だから、何事も先延ばしすることなく決断することが出来ます。

【乳癌ステージ4】なのに、天地人の恵みをいただいて小康を得、生活のすべてを闘病に費やすことなく穏やかな時間を過ごすことを赦されています。

修学旅行に来た女子高生のように、些細なことに笑い、飽きることなくおしゃべりを続ける「老姉妹」の後ろを歩きながら、「本当に間に合ってよかった」と、恵まれた自分の幸せに感謝した旅行でした。合掌。

足立美術館

追伸、「老姉妹」は私の叔母と母親ですので、「もちろん」優れた血統を持つのん兵衛です。(笑)

旅館の夕食の際に「お飲み物はいかがされますか?」と尋ねられたので「とりあえず、2合の熱燗を3本」とお願いして仲居さんの度肝を抜いた「老姉妹」(笑)、しかも「もちろん」それだけでおさまることなく、2合徳利をテーブルに林立させていました。

「もう二人とも大人なんだから、相手に無理強いして飲ませてはいけません」と、嗜めたのは若輩者の私でした。(笑)

 

次は

です。

足立美術館

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老姉妹の思い出旅行 足立美術館 (nya.405)” に対して16件のコメントがあります。

  1. よっちゃん より:

    かくしゃくたる御姉妹、あっぱれです!

    1. ふるゆら より:

      よっちゃんさん、ありがとうございます。

      あの「老姉妹」に「かくしゃくたる」という形容詞は、・・・・・思いつきませんでした。(笑)

      私の血縁ですので「物忘れがひどい」「自虐ギャグで笑わす」「常にアルコールを求める」という強陽性の遺伝子を共有しています。

      互いの老人性の「ボケ」をネタにして笑い合う2人、・・・あっぱれな「珍道中」でした。(笑)

  2. DRNO より:

    最新の研究で、殆どの悪性腫瘍は、ヒューマンパピローマウイルスの感染とアスベスト±重金属の汚染の合併と分かりました。治療はいたって簡単です。平均適量は、ビタミンD400単位x3~4/日とタウリン180㎎x3~4/日です。全身のウイルスやアスベストが尿中に排泄されます。癌を強力に抑える事が出来、且つ、うまくいけば治るのです。近くの薬局で買えない場合は、ネットや又は海外から個人輸入できます。タウリンはリポビタンDなどにも入っている安全なものです。ビタミンDは骨・カルシウム代謝のみでなく、脳細胞を元気にして、その再生と更に新生をも助けます。つまり健康人でも飲めますし、それなりに集中力がつき、頭が働くという事です。両者とも強力な、そして副作用の殆どない、抗がん/抗ウイルス作用が見つかっています。又化学療法の副作用の軽減も報告されています。細胞を根っこから元気にするために、全ての疾患に効果が期待されます。健康と思っている人でも効果があります。是非私のブログを参考にする事ををお勧めします。➡ http://blog.goo.ne.jp/nobuokohama 。
    これらは必須栄養素であり、非常に簡単に安価で、誰でも何処でもできますから安心です。ご参考まで。 DRNO

    1. ふるゆら より:

      DRNOさん、コメントありがとうございます。

      たった今会社から帰ったばっかりで、コメントを読ませていただき、DRNOさんのブログをチラッと拝見させていただきました。

      私の素人臭いブログと違って、DRNOさんのブログは「本格派」、とてもきれいなブログだなぁと、まずそのことに感心しきりです。

      ものすごい情報量なので、時間がある時読ませていただきますね。

      ビタミンD400単位x3~4/日とタウリン180㎎x3~4/日

      肝に銘じました。

      ご親切に教えていただきありがとうございました。

      生活に取り入れてみます。

  3. のんち より:

    素敵(*´ω`*)素敵過ぎます
    感動しちゃいました
    叔母さまとお母様のツーショットの写真
    素敵な写真ですね

    私はもう両親居ないのですが
    7つ上の姉がいます
    姉の還暦の時に旅行に連れてってあげたいなと思っています
    姉妹で旅行に行ったことないんで(*^^*)

    素敵なお話とお写真ありがとうございます

    1. ふるゆら より:

      はい、とっても楽しかったし、「達成感」のある旅行でした。

      のんちさんも、お姉さまとぜひお出かけください。

      「還暦」と言わず何度でも思い出を重ねられるといいですよ。

      私がこの病気になって痛感したことは、今の延長線上に「〇年後」があるわけではない、ということです。

      変化のない穏やかな時間を過ごしていても、時の流れは留まることなく変化を促しています。

      今できることを先延ばしせずお過ごしください。

      「還暦カウントダウン旅行」で「プレ」「プレプレ」なんかどうですか?(笑)

  4. 絵里 より:

    ふるゆらさん、お久しぶりです。今日のブログからは、叔母さまとお母さま、孝行というか、足立美術館で、ふるゆらさんが3人でゆったりと素敵な時間を過ごされた様子が伝わってきます。女の子に戻ってきゃぴきゃぴおしゃべりしているお母さま達を後ろで見ている、ふるゆらさん。まだまだこういう親孝行をたくさんしてあげてくださいね。ふるゆらさんはやさしくて温かい方ですね。初冬の庭園も、とても美しいです。

    1. ふるゆら より:

      絵里さん、お久しぶりです。体調はいかがですか?

      ほんとうに楽しい旅行でした。

      私の場合、旅行の目的は「何もしない」ことなので、もともとまったりした旅行が好きなのです。

      同年代の友人と旅行するとなると、自分の体力のなさに気が引けるのですが、老姉妹の引率はさらにスローダウンするので気が楽でした。(笑)

      せっかく遠出したのに一か所だけで帰るなんてもったいない話ですが、今回は足立美術館の隣の旅館に泊まって、到着した午後と翌日の午前中の2回足立美術館を楽しみました。

      11/30と12/1だったので、美術館の展示が入れ替えられていて、横山大観の作品も2倍観られました。(笑)

      こんなのもアリですよね。

      絵里さんも、体調が良くなって気候も穏やかな頃に、体調に合わせたお出かけをプランされてはいかがでしょう。

      「よく頑張ったご褒美」に、きれいなものをいっぱい見る贅沢をご自分にプレゼントなんて素敵です。

      1. 絵里 より:

        月が代わって、展示物の入れ替えなんてラッキーなことがあるんですね♡ でも学芸員の方々の仕事っぷりがハードそうですよね。徹夜かな?

        1. ふるゆら より:

          亀の甲より年の劫(笑)

          ばっちり下調べをして「特別展」が入れ替わる日を狙ったのでした。

          老姉妹の「疲労度」の予測がつかないので、疲れているようなら1日目「絵画」2日目「お庭」と分けてみるのもアリかなと、ゆるゆるな計画をたてました。(笑)

          足立美術館は「年中無休」、スタッフの方の「徹夜」は間違いのないところです。合掌。

  5. ゆうこ より:

    親孝行出来て良かったですね。
    本当に怪我の功名といいますか、
    こういう事ってたくさんある、というか
    こんなことだらけのような気がします。
    この不幸がなかったら、この幸せには出逢えなかった…
    そう考えると不幸な事が起こったからといって
    絶望するのは浅はかなことかもしれませんね。
    辛い事が起こったら、よし、こんな辛い目にあったからには
    驚くほど素晴らしいものの見方が出来るようになる
    自分になる前兆だ。とか
    より高みに登ったのだから、より遠くまで見渡せるように
    なるはずだと思えればいいですよね。
    そういう風にとらえられるようになる為に
    もしかして苦難というものが与えられるのかとさえ
    思えるほどです。
    私もひどい落ち込み気分の中、ひたすら「闘病」でネットを
    あれこれ見ているうちにふるゆらさんのブログに
    たどりついたのです…病気でよかったと思いました。
    ふるゆらさんの文が毎日読めるんですから。
    あれ?このセリフ……どっかで聞いたなと思ったら
    思い出しました、映画「タイタニック」でどざえもんに
    なりそうなジャックがローズに「この船のチケットは幸福
    行きの切符だった」「君に会えた」ってシーンですね。

    1. ふるゆら より:

      ゆうこさん、ほんとうです。

      ほんとうに「間に合った」と神さまに感謝した旅行でした。

      禍福は糾える縄の如し

      人間(じんかん)万事塞翁が馬

      平たく言うなら『気の持ちよう』で、暮らしに差し込む日差しの色合いはいかようにも変化します。

      お子様の年齢から推察するに、ゆうこさんも私と同年代でしょうから、この歌をエールとして贈ります。

      ザ・ベストテンで覚えるほど聴いた松山千春の『空と大地』のワンフレーズです。

      野に育つ花ならば 力の限り生きてやれ♪

      雨風から守られることも、肥料を与えられることもなく、誰かに認められて褒められることもなく、育ちにくい場所に必死で根を張り葉を伸ばし、季節が来たら花を咲かす野辺の雑草が、私は大好きです。

      この世を卒業する時に「よく頑張った」ではなく「ああ、面白かった」と思いながら目を閉じたいものだと思っています。

      No Rain、 No Rainbow

      雨が降らなければ、虹は出ない

      雨が降るから、虹に会える

      ゆうこさんも流した涙の分だけ大きな虹に会うことでしょう。

      1. ゆうこ より:

        ありがたいお言葉、ありがとうございます。

        野辺の雑草…すごいですよね
        誰からもやさしくされず、落ちこんで向精神薬を
        飲むこともなく。見返りを全く求めずただ咲いている…
        完全無償奉仕ですね。生き方の模範がいたるところに
        あったのでした。

        私は来年50歳ですからふるゆらさんとほぼ同い年です。
        ザ・ベストテン
        珍道中
        狂想曲など、いかにも昭和なキーワードがおかしくて
        なつかしいです。東京だよおっかさん、は古すぎですけど(^^;

        1. ふるゆら より:

          ははははは、「昭和」全開ですね。(笑)

          ついでに『時代遅れの男になりたい♪』と歌って、「男じゃねーし」と自らツッコミを入れることもしばしばあります。(笑)

          まぁ、だいたい私は自分に対するハードルが低いからお気楽なんだと思います。

          無理をせず、田舎の片隅で自分の身の丈に合った暮らしを、丁寧に誠実に生きられたら「上出来」だと心底思っています。

  6. かえで より:

    ステキな名案、実現してよかったです。

    今さらながら、骨折のタイミングが絶妙すぎです。

    1. ふるゆら より:

      はい、かえでさん、とても楽しかったです。

      私の骨折事件は、老姉妹の間で「間に合うのか、旅行に」と話し合われたようです。(笑)

      医者の見立てが「全治8週間」で約2か月後、旅行は11月下旬で約3か月後です。

      話し合うこともないように思うのですが(笑)、旅行は準備する時間も楽しむものなので、老姉妹が私の回復具合を肴に盛り上がって楽しそうだからいいか、と放置しときました。(笑)

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